
※本コラムは、弊社代表の西尾が「月刊ガソリン・スタンド」で連載している内容をもとに、再構成・加筆したものです。
常連のお客様から「すぐ戻るので車を止めさせてほしい」と頼まれ、鍵を預かってスタンド内に駐車。ところがお客様は閉店まで戻らず、翌日「車を出せずタクシーで帰った。代金を払え」と請求された。この場合、SS側はタクシー代を支払う必要があるのか。
人が他人から物の保管を依頼され、これを承諾して預かる契約は、法律的には「寄託」契約(民法第657条)に該当することとなります。本件においても、SSが了解して常連客から車両をその鍵とともに預かり、車をスタンド内で保管したことは、この寄託契約が成立するものと思われます。
この寄託契約は、その報酬を請求できるか否かによって、無償寄託と有償寄託に区別されます。この区別は、預かっている物についての管理する際の注意義務の程度に影響します。無償寄託では、「自己の財産に対するのと同一の注意」を負うにとどまりますが(民法第659条)、有償寄託の場合は、「善良な管理者の注意義務」を負うとされ、その義務が加重されます。また、商事寄託といって本業や本業と密接に関連して物を預かる場合も、有償寄託と同様に義務が加重されます(商法第595条)。
本件の寄託契約が、このいずれの性質になるかは見解がわかれうるところですが、いずれだとしても、SS側が閉店まで待つ等して適切に管理していた以上、保管上の注意義務違反は認められないでしょう。
そうなると、車をあずけた常連客はSSに対して、タクシー代つまり損害の賠償を請求することはできません。以上のとおり、ご相談のケースにおいてSSは常連客が要求するタクシー代を支払う義務はなかったと言えます。
ここまでがひとまずの法律的な議論です。法的な整理が上記のとおりだとして、実際にそのとおりの結論を求めるかどうかは当事者次第です。この手の法的な整理をビジネス上の意思決定と一致させる必要はまったくありません。
本件で仮にSSが法的な整理を十分理解していたとしても、「顧客喪失をしたくないため」というビジネス上の理由を含めて判断し、なお一万円を支払うという意思決定はあり得ますし、その対応は適法です。その場合のSSの対応について法的にもまったく問題ありません。
ちなみに、このSSが事前に弁護士に相談していたとして、その弁護士は「一万円を支払ってはいけない」とは助言しないでしょう。弁護士はクライアントに対して法的な整理にそった行動を指導するというより、クライアントが適切な意思決定をするための一材料として法的観点からの情報提供をする役割を果たす、いわばナビゲーターなのです。

西尾 公伸
弁護士・日本エクイティバンク株式会社代表取締役
第二東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。
1983年生大阪府堺市のガソリンスタンド経営者の長男として生まれる。
中央大学法学部卒業後は大阪市立大学ロースクールへ進む。社会人アメフトのトップリーグであるXリーグで現役選手として活躍しながら司法試験に合格。所属するAuthense法律事務所では統括責任者としてアメフトで培ったチームワークをモットーに企業様や経営者様のに寄り添ったサポートを行う。事業承継に伴う未解決の課題を解決し、全ての現役オーナー経営者が経営をやり切るための仕組みと文化を創り出すために、2024年日本エクイティバンク株式会社を創業。
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